田村浩介インタビュー

沖縄で「いきがいのまちデイサービス」を運営する田村浩介さん。作業療法士としての考え方やデイサービスについて、まちづくりに対する思いなどを聞いた。(インタビュー・文・写真=トマトリンクス)

―― 作業療法士と理学療法士の違いについて教えて下さい

いきがいのまちデイサービスにて

いきがいのまちデイサービスにて

どちらもリハビリを専門とする国家資格です。

理学療法士は、身体を動きやすくするために、関節をやわらかくしたり、筋力を鍛えたりします。それによって、生活しやすくするという考え方だと思います。

作業療法士の「作業」というのは、人が生活する上で行うすべてのことを言います。ご飯を食べること、服を着替えること、歯を磨くこと、仕事をすること、家事をすること、スポーツをすることなどです。根底の考え方は、できなくなってしまった作業を取り戻すことで、その人の人生そのものを回復するというものです。

それにはもちろん身体を治すことも一つだし、やる気を出してもらうことも大切です。そして作業を回復するというのは、以前とまったく同じようにできなくてもいいんです。誰かに手伝ってもらってやったり、道具を使ってできるようになるのも含まれます。

―― 身体の回復以外の幅広いアプローチも行うということですね。

そうです。つまり、どんな方法であれその人が望む「やりたいこと」ができるようにお手伝いするのが作業療法だと思っています。

―― 作業療法士になろうと思ったのはなぜですか?

私の母親は、病気で早くに亡くなりました。その影響もあって人の役に立つ仕事がしたいと思っていたんです。そんな中、高校の先生に作業療法士を教えてもらいました。調べてみると、革細工、手工芸活動などの取り組むリハビリ自体が楽しそうだと思ったんです。作業療法士の数がまだ少なく、天の邪鬼な性格だったので選んだというのもありますね(笑)。

―― 東京から沖縄へ来たのは?

東京の専門学校へ通っていたんですが、臨床実習でたまたま沖縄へ来たことがきっかけです。妻は東京の専門学校の同級生なんですが、妻の出身も沖縄なんです。面白い偶然というか、運命なのかも知れません。

―― デイサービスというのは何を行なう施設なんでしょうか?

介護保険法に基づく事業です。介護認定を受けた方を、車で送迎して来ていただいて、日中、その方に必要な介護サービスを行います。例えば、自分でご飯を食べられない方の口元へご飯を運んだり、自分でトイレに行けない方のオムツ交換をしたり、他にも体操の手伝いや入浴介助などいろいろなことを行います。

―― 今お邪魔しているのが「いきがいのまちデイサービス」ですが、どんな特徴がありますか?

まずは、少人数制というところです。一日に最大で10人までです。利用者さんには、家庭的な雰囲気で落ち着く、職員との距離が近くて安心できる、職員が若くて元気があると言ってもらっています。だから、元気が出て癒やされるという声が多いです。
また、作業療法士が立ち上げたのも特徴です。常勤の作業療法士3名で始めました。デイサービスでありながらリハビリに強いということです。介護サービスだけでなく、ひとりひとりに合わせた目標とリハビリメニューを提案、ご本人、ご家族と相談しながら一緒に目標に向かって取り組んでいます。

昔ながらの蛍光灯

昔ながらの蛍光灯


―― アパートを改装したということで、いい雰囲気ですね。

そうですね、一階の3部屋をひとつに繋げています。蛍光灯なんかも建築の方には新しくしたらどうかと言われたんですが、こだわってあえて古いままにしました。昔ながらのぶら下がってる蛍光灯です(笑)。

―― デイサービスの名前に、「まち」と入っているのはなぜでしょうか?

地域に根ざしたいという想いがあります。

作業療法士の5割を身近な地域に配置しようという、日本作業療法士協会の作業療法5・5計画というのがあります。「地域に根ざす」というのはどういうことだろうとずっと考えていました。そしてまちづくりというキーワードに強く興味を持って。

先輩の作業療法士である、夢のみずうみ村代表の藤原茂さんから勉強させてもらっていました。この方はリハビリの考え方に基づいたまちづくりについてずっとおっしゃっていて、心に残っていたんです。自分なりに勉強していく中で、地域に、行政に、作業療法士ではない人たちの中にもっと飛び込んでみようと思いました。

そんなとき、沖縄市活性化100人委員会を知りました。その中の国道330号線のまちづくりを考える部会というのに応募してみたんです。作業療法士以外の業種業態の人たちと関わることで、とても視野が広がりました。
部会長の屋宜恒一さんは、安慶田土地区画整理事業推進協議会の会長も務めていて、まち全体を考えるんだと、安慶田地区をモデルにして沖縄市全体に広げていくことを提案されていました。そして、まちづくり勉強会をやってるというんです。「本当にまちづくりやってる人いた!」とびっくりしました。いろいろ勉強させてもらう中で、沖縄市の民生委員の会長でもあった屋宜さんに「なんでも勉強だから。民生委員のひとたちは地域の取り組みをやってきたひとたちの集まりだから、すごく勉強になる。」と言ってもらい、民生委員に推薦していただいたんです。そして民生委員としてさまざまな行事に参加する中で、地域のことがよく分かるようになっていきました。

だから私は、地域の特性、文化価値観をまず勉強して、その中でどんなデイサービスがその地域で求められているのか明らかになってから、その需要に沿ったものを作りたい。
障がいを持った方だけのデイサービスではなくて、地域の人たちがボランティアで参加したり、私たちが地域の人たちの相談に乗ることが出来たり、地域そのものを支えていくというのが作業療法の考え方に近いと思っています。

そういったまちを作っていきたいという想いで、いきがいの「まち」デイサービスという名前にしたんです。

まちづくりにかける思い

まちづくりに興味を持ち、沖縄市の民生委員も務める


―― 沖縄市だけでなく、金武町でも「いきがいのまちデイサービス金武」を運営していますね。

いきがいのまちデイサービス金武

いきがいのまちデイサービス金武

私は、デイサービス同士で横の繋がりを作るのはなかなか難しいと感じています。でも金武町では地域のケアマネージャーさんが中心となって、それぞれの施設のスタッフが集まる会を作ったんです。金武町の介護が必要な人たちを、金武町全体でサポートしようという考え方があるんです。

例えば、入所施設を利用している方は、その施設内のデイサービスへ通うことが多いと思います。でも、リハビリに力を入れたい方が居れば、ケアマネージャーさんが、「作業療法士がやっているいきがいのまちデイサービス金武に週二回通わせて下さい」と、入所施設にお願いして、施設長がOKするんです。そういう利用者さんが何人も来てるんです。
逆にうちには看護師さんがいないので、医学的な管理が必要な場合は看護師さんが立ち上げたデイサービスがあるのでそちらでお世話してもらっています。リハビリに強いところ、看護師さんのいるところ、入浴対応が上手いところなど、それぞれが役割分担をして協力し合っています。

ひとりの利用者さんをいろんな施設がサポートするという考え方が浸透しているのが金武町のすごい面白いところです。今後は他の地域でもこういった取り組みが広がると思います。うちのいきがいのまちデイサービス金武の管理者も金武町在住で、志がすごい高いので、私はあまり関与せずに安心して任せています。 

―― そんなに違いが出るというのは面白いですね。いろんな地域で得られたものがひとつに凝縮できたらすごいことになりそうですね。 スタッフの方にはどういった人材を求めていますか?

目の前の利用者さんを中心に考えられるスタッフと一緒に働きたいです。自分がどうだとかを置いておける人、人が大好きな人、人と関われることをハッピーだと思える人、ちょっとくらい自分を犠牲にしても利用者さんを中心に考えられるような人が向いています。

というのも、利用者の方がやりたいことを、どうやったら実現できるかを考えて行くのが作業療法のやりかた。一方で医療的に考えたら、「血圧が高いからそれはさせないで」ということでストップがかかってしまうこともあります。どうしたらできるのかをよく考えれば、解決策がみつかるかもしれないのに、事務的にNGが出されてしまって結局実現できなかった事例を以前はけっこう経験しました。
特に大型の入所施設などでは、スタッフ一人に対する利用者さんがどうしても多くなります。オムツ交換、ベッドメイキング、入浴介助などを黙々とこなさなくてはならないところも。そういったところでは、利用者さんが本当にやりたいことを一緒に考える暇もありません。

やっぱり利用者さんはやりたいことができると、すごくいい笑顔になるし、家族も喜んでもらえますし、思い出になるし、そういう方たちとはいまだに付き合いがあります。事務的な付き合いよりも、そういった関係の方がいいなと思いました。
相手とある程度の距離をとって付き合うという考え方もありますが、私としては相手の人生を背負っちゃうくらいの関係のほうが私自身幸せなんです。

私の母親は早くに亡くなりましたが、父親も63歳で亡くなりました。だからあまり親孝行できなかった。その分、自分の周りの人たちに幸せになってもらうことが、私の幸せなんだと感じています。

―― デイサービスを運営していてよかったと思うことは

田村浩介

逆に相談することも

月並みですが、利用者さんから感謝されたときですね。とにかくそれに尽きます。そして、スタッフも利用者さんに感謝している。お互いに成長していくという感覚を利用者さんとスタッフの両方が持っているというのを聴けたときにはすごく嬉しかったです。

最初にデイサービスを立ち上げるとき、どんな施設になるのかある程度イメージがありました。でも、いざやってみるとぜんぜんそうならなかった。作業療法の専門的な技術をどんどんやっていくんだと思っていたら、そうじゃなく、利用者さんやその家族と一体になってなんだかめっちゃ仲良くなっていくんです。これは予想外というか、これまで経験したことがなかったです。すごく一人一人と話し込む。私なんかも家庭でうまくいかないことを利用者さんに相談したりすることもあるんですよ(笑)。

―― これからの夢などありますか?

私の夢は、こういった小規模デイサービスが各自治体に一個ずつあるような環境です。市町村単位でなく、自治会単位の地域が自分の地域を支える、そのためには各自治体に入り込んでいかなくてはならないと思っています。
そのための人材を育てるために「いきがい作業療法塾」のようなものを作っていきたいと思っています。

―― 確かに小規模だと、利用者さんと深く関われる分、人数は限られてしまいますね。

だからこそ数が必要です。そのために相手個人を思いやることのできる人材が多く必要になります。現在、沖縄市と金武町でデイサービスを運営していますが、これからもどんどん増やしていきます。
同じ考え方を持った人たち、エネルギーのある志の高い仲間がたくさんいるということも、人と繋がる中でわかってきました。利用者さんがやりたいことを実現するのが本当のリハビリの考え方だと思っている人たちがすごいあちこちにいて、でもすごく悶々としている。そういった人たちとどんどん繋がって、力を借りながらそれぞれの地域に理想の施設ができていくという感覚もあります。

―― 最後に、一緒に働くスタッフの方たちにメッセージがあればお願いします。

「利用者のみなさまのいきがいあるれる人生のお手伝いをする」というのが理念なんですが、まさにひとりひとりがその通りに、そしてやりがいをもって仕事をしてくれているので、「ありがとうございます。」と、感謝です!

壁

いろいろな手芸作品が飾られている「いきがいのまちデイサービス」

 
 

いきがいのまちデイサービスにて 2013年1月